ここは『やまやくらぶ』秘密の部屋。
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そして、くれぐれもこのコーナーのことは内密に・・・。

 

このまま読み進める方は、覚悟してください。
このコーナーでは、みなさんに楽しんでいただける自信がございません。
それでは第9回、はじまりはじまり。

 

 

本日のお題はこちら。

虚構と現実のはざまにて

 

内藤です。
自治会の主催する夏祭りに参加しました。

 

私の担当は『わたあめ体験』と『ジュース』『ポップコーン』、
どれでも1個100円で大盛況でした。

 

体験型のわたあめ作りは、ちびっこの心をワシヅカミしたようで、
日が沈むまで大行列。
ふんわりと美味しそうに作れる子と、奇怪な固形物のようになってしまう子がいて、
その出来栄えに一喜一憂しているのを見ては、楽しんでおりました。

 

わたしは何をするわけでもなく、
必死にわたあめ作りに取り組んでいる子供たちの横から、
算数や社会など学校の問題を出したり、
好きな子の名前を聞いたりと・・・応援に精を出していました。

 

そして、その出来事は不意に起こったのでした。

 

その女の子は、1回100円の大行列に並ぶものの、
自分の番になると無言で列を離脱し、また後ろの方に並びなおすのです。
わたしがそれに気付き意識して観察すると、
あと2人目くらいのところで、いつも列を離れてしまう。

 

あと2人目くらいのところとは、100円を徴収する場所でした。
どうしても気になったので、当日手伝ってもらっていた女性スタッフにお願いし、
その女の子に『どうしたの?』と話しかけてもらいました。

 

『・・・お金ないの』と応えたそうです。
女性スタッフはそれ以上は何も聞けず、自分の持ち場に戻ってきました。
う~ん・・・皆さんならどうします?

 

晴れた休日の子どもたちの憩いの広場で、10歳にも満たない子供たちの世界に、
リアリズムたっぷりの『社会そのもの』を垣間見て、
のちに記録的猛暑と言われた炎天下において、
うなじから背筋を流れる汗に冷気を感じたのを良く覚えています。

 

わたあめ体験は、子供たちにとって『試練』を意味しています。
列をつくる子ども達は、先頭の子が巻き上げた『いわゆる作品』を横目でみては、
心からとめどなく湧き出てくる、自信と緊張が混在した動揺を、
決して友達に悟られまいとする。


そしてその反動ともいえるのでしょう、大行列は笑い声と歓喜に満ち、
一見には活況を呈してみえるものです。

 

大人の女性に話しかけられたのを、注意されたものと勘違いしたのか、
その女の子は列から離れ、
そのシュールで虚構の『大はしゃぎ』を遠巻きに眺めていました。

 

スタッフに持ち場を代わってもらい、
できたてのポップコーンを売り場から掻っ払った私は、
熟考せず衝動的にその女の子に手渡しました。

 

後になって冷静に考えてみれば、
日焼けしたおじさんが、ひとりでたたずむ小さな女の子に、
お店から離れた場所でポップコーンを渡している構図は、
どうみてもあやしい・・・。

 

その女の子は、私が『わたあめのおじちゃん』だと判っていたので、
プレゼントは受け取りましたが、戸惑った様子でした。
『それはプレゼントだよ。食べてね。』と伝えたら、『ありがとう!』ですって。

 

とてもうれしそうに走り去る姿に、妙な達成感をおぼえ、
『真夏のおじちゃん』は自分の持ち場に戻りました。
それは心に残るとても美しい笑顔でした。
弥馬屋でも
『ありがとうございました』はあんな笑顔とセットでなくてはいけないな・・・。

 

大行列は減ることも増えることもなく、その肢体をほどよくうねらせる。
それはリピーターの子ども達の無意識によって創り出される、集団アート。

 

『順列』というルールに縛られながらも、
その他は好きにして良いと自由を約束され、
その未来には『試練』と『わたあめの報酬』がまっている。

 

この『ルールの上に成り立つ、自由と、未来への安心感』は、
やはり現実の社会とは相反する『虚構の大はしゃぎ』であり、
『お金がない』とたたずんでいた女の子は、民衆を現実に引き戻すべく、
ふくれ上がったバブルに一石を投じる存在であったのかもしれない。

 

だが、そこに住む民衆は、
女の子の存在に気づいていながらも、バブルの世界に依存し、
女の子の存在を視界から排除していたに他ならない。

 

鈍い音を奏でて連続運転するわたあめ機で、
『いわゆる作品』に必死に取り組む小学生の脇に立ち、
次々にうかぶ妄想に拘束されて、
虚空の彼方をみつめる私を現実に引き戻したのも、その女の子でした。

 

虚空を見つめていた私の目の焦点が、
じわじわと合っていくと、ぼんやりしたシルエットは、
私に向ってたたずむ少し恥ずかしそうな女の子であった。

 

『どうしたの?』と訊くと、
『これしかないの』と言って、50円玉を私の手にのせた・・・

 

つづく。
何かが見えるまで。内藤。

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【ほぼ内藤わたり】-第9球目-