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著書【宝石の裏側 vol.1】

宝石の裏側-第1話- 【現代の宝飾事情】

宝石の裏側タイトル

 

宝石の裏側-第1話- 【現代の宝飾事情】

 

 ジュエリーが巷に氾濫し、見つけられないのは親指用の指輪だけだといわれています。しかし他方、持っているジュエリーに飽きてしまい、地金に処分したり、リフォームに持ち込まれるジュエリーが後を絶たちません。せっかく買い求めても、それを使って楽しむ場所がなく、ついしまい込んでそのまましまった場所も忘れてしまうという話を聞くと、これが日本のジュエリーステージの実情なのだと了解せざるをえません。

 実に女性のジュエリーの楽しみ方こそが、その国の文化を反映しているといえるのです。したがって現代の宝飾品事情を探っていくと、われわれの時代の生活感覚や生き方の特徴が浮き彫りになってきます。

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 二重価格による価格操作、キャッチ商法まがいの折込チラシ、有名タレントを利用してのTVショッピングなど、売り手側の販売競争は消費者の視覚をますます惑わす方向へエスカレートしています。ディスカウント店だけでなく百貨店までもが粗悪なジュエリーを当然格安、激安にし、客寄せの道具に使っているのが現状であります。

 ジュエリーはいまや目をそむけたくなるような雑貨品になり、生活消耗品の感さえします。人類の歴史の中でジュエリーの無い時代や社会は存在しなかったように、どのような社会にあってもジュエリーは必要不可欠な存在なのであります。ひとつのジュエリーを紐解いていき、時代や社会、生活のたたずまいを探ることにしましょう。

・・・つづく

 

 


 

 GEM -至宝-

 

 宝石は地球内部から採掘された鉱物のままの状態では、その美しさを完璧に表現できていません。その鉱物の持つ結晶構造や特性に合わせて、人間による精密な計算と熟練された技術によって研磨が施されます。

 そして初めて鉱物の持つ、たぐいまれな美しさが表現されるのです。ジェムストーン=宝石は、自然の鉱物に人工的な英知と技術が加わり、初めていわゆるプレシャスストーン=貴石の地位を獲得します。

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 鉱物が宝石と認められるためには、それ自体が持っている天然の美しさの他に、当然のことながら産出量がわずかで稀少物質であることや、その鉱物の硬度が極めて高く恒久性にすぐれていることが条件となります。宝石は、これらの点ではほかの物質をはるかに超えているでしょう。

 この特徴を持っているために、宝石は、貴重で高価なイメージが人々の心に時代を超えて生き続けるのであり、宝石特有の価値が永遠性を帯びてくるのです。祖母から親に、そして子供から孫にまで譲られ持ち続けられるものとして、宝石は我々の身の回りの品の中で最も卓越した物品であるといえます。

・・・つづく。

 

 


 

 ORNAMENT -装飾品-

 

 ところが人は何故この恒久的な価値を持っている宝石に飽きるのでしょうか。飽きることなど考えられないほど魅了させられた宝石や貴金属に、人はどうして飽きてしまうのでしょうか。しまい込んで使わなくなり、場合によっては、見るのも避けたくなるほど嫌いになるのは何故なのでしょうか。

 宝石というものは、カットや研磨された裸石の状態のままで所有されるよりも、ほとんどは人の身体に装って使用されるものです。宝石を身に着けるためには、飾り職人が金やプラチナなどの貴金属を利用して加工を施さなければなりません。貴金属で石の台座や枠を作り、ブローチの針やネックレスの留め具を作ることによって、宝石は身体への装飾が可能となります。つまり宝石はデザインされ、外枠加工を施されることによって、初めてジュエリーとして実際に使用されます。 

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 デザインと加工技術という人工の英知が裸石の宝石に施されない限り、宝石は単なる鑑賞品でしかありません。地殻内部から採掘された原石が、人工のすぐれた研磨技術によって、どれほど美しい輝きを得ても、それ自体はジュエリーではありません。宝石とジュエリーとは全く別な範疇のものなのです。

 極端な言い方をすれば鑑賞されるものが宝石であり、身体に装うものがジュエリーであります。そして身に着けるためには装着の工夫をしなければなりません。この装着の工夫こそがデザインと加工技術であり、人が飽きたり嫌いになったりするのは、ほとんどこの装着の工夫に対してです。

・・・つづく。

 

 


 

THEORY -理論-

 

 裸石としての宝石は、市場の流通価格の変動に影響されながら、比較的安定価格を保持しようと努め、誰に対しても気に入られる客観的価値を持ったものとして市場に現れます。1カラットのダイヤモンドのカット石はそのグレードに差異があっても、ダイヤモンドに与えられている歴史的、社会的な評価と当面の市場相場からの評価額で市場に現れています。

 他方、デザインされ製品としての外観を持ったダイヤモンドの指輪は、個人的趣向に価値が移行して所有されるために、どんなに優れた宝石が取り付けられていようとも、それを買い求めようとする人の個人的で主観的な価値で評価されます。

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 つまり装飾品としての形を持ったジュエリーは、使う人の個人的なキャラクターや、身体に似合うか似合わないか、ということに価値の基準がおかれるのです。したがって飽きるというのは実は宝石に対してよりもデザイン、加工技術を含むジュエリーに対してであります。デザインフォルムや制作の工芸的なテイストに、ユーザーの趣向がずれてくるので飽きるのです。

・・・つづく。

 

 


 

CASE 1 -出来事-

 

 30歳代の女性、包まれたハンカチーフの中から出てきたものは、18金の地金ファッションリングとダイヤやルビーの小粒石の入った指輪など4点、プラチナと金を絡め合わせたネックレス1点、片方になったピアス数点。

 実はもう何年も引き出しの中にしまいこんでいて、すっきりしたいので何か新しいものを作りたいとのこと。これらを利用して、日常気軽に使える指輪を作ることがこの女性の希望でした。地金の量が多いので自分用とご主人用のペアリングを作ることになりました。

・・・つづく。

 

 


 

KNACK -コツ-

 

 ところで一般に、リフォームの作り手としての基本的な手順はまず依頼主であるユーザーのキャラクターや趣向を掴むことから着手します。ジュエリー誌やいくつかのカタログを見せることも、ユーザーの趣向、性格、ライフスタイルや使い勝手などを導き出すのに役立ちます。

 依頼主の希望を絞り込みながらラフ画を描き、依頼主の気持ちが言葉や表情にレスポンスしてくるのを伺い、さらに細部のデザインをとらえるために、つける人の指の表情やヘアスタイル、顔の輪郭から肩に降りてくるライン、全体のプロポーション、立ち振る舞いなど、可能な限り様々な角度から依頼主のキャラクターを掴むことが大切です。

 このような対面的なコミュニケーションを通して、依頼主の雰囲気がラフ画の中に現れると、やがて依頼主の方から共鳴の反応が聞こえてくるものです。できるだけ短時間で依頼主の趣向をつかみ、この〈面接〉を切り上げることが肝心で、後日いくつかのデザイン画を見せて依頼主のイメージをさらに絞り込めば、新しく創作するジュエリーが依頼主と作り手の両者に明瞭となってくるのです。

・・・つづく。

 

 


 

EXAMINATION 1 -考察- 

 

 ところでCase 1の女性は自分のジュエリーに何故、飽きてしまったのでしょうか。話を聞きながら察したことは、これらのジュエリーが市場に出回っている一般的な物であったこと、それらがすでに本人の年代層や社会的ステータスに合わなくなっていること、再びつけたいという愛着が起こらないことなどでした。

 結婚後10年余りが過ぎ、ライフスタイルやライフステージが変化し、今まで愛用していたジュエリーが自分の存在感や生き方、ポリシーを表現する器として、物足りなくなってしまったのです。ジュエリーの特徴は、それをつけたり所有したりする人の存在を表現することであり、つけるユーザーの存在感や内面性を代弁するものであります。この女性との会話から、彼女の希望するペアリングを制作するにあたって、実行しなければならない条件がいくつか見えてきます。

1:宝石店のショーケースや結婚式場に陳列されている出来合いの一般的マリッジリングを、デザインの点からも加工技術の面においても超えること。

2:プラチナとイエローゴールドの二色を使い、プラチナに男性を、ゴールドに女性を象徴させること。

3:手作りの味わいを十分に生かして、リング内側の直接指に接する地金部分に、緩やかなアール状の仕上げを施し装着感を良くすること。

  この女性が今まで使用してきたジュエリーに飽きたのは、自分の生活スタイルの変化のためです。しかし別の面から見れば持っていたジュエリーそのものが時代の変化とライフスタイルの変化に耐えうるような品物ではなかったといえるでしょう。つまりジュエリーそのものが時代の流行に押し流されてしまう程度の物であったのです。

 また、ユーザーが自分のジュエリーの作り替えを決意するときには、その形状だけでなくそのジュエリーが持っているストーリーにも飽きてしまっているということがあります。したがって作り手は形状を壊すと共に、そのジュエリーに付着している記録や思い出を消してしまうことも必要なときがあるのです。

・・・つづく。

 

 


 

 CASE 2  -出来事-

 

  50歳前後の女性。持ち込まれたジュエリーはプラチナ枠で腰高の6本爪に留められたダイヤモンドのリングと、使い古して表面がすり減り、模様がぼやけてしまっている甲丸状のプラチナの結婚リング2本でした。数年前に亡くなった御主人との思い出の品なのだそうです。これらを利用して自分の指に馴染んでつけやすいリングの制作依頼をうけました。

  続いては母親と息子、そしてその息子さんの婚約者の3名。4本爪のプラチナ枠に留めてあるダイヤモンドリングを御持参。母親の持ち物であるこのリングのダイヤモンドをはずし、新しい枠で息子さんの婚約リングを作りたいとの依頼でした。

 続いて50歳代前半の女性。親から譲られたか、遺されたものかヒスイのリングを御持参。プラチナ台へ12本の爪でヒスイが留められています。なんとも時代の古さを感じさせられる品物でした。女性の希望はダイヤモンドを周辺に使用してフォーマルなリングに作り替えることで、家宝として今後も永く遺したいとのこと。

・・・つづく。

 

 


 

EXAMINATION 2 -考察- 

 

  Case 2では二つのことが前提となって作り替えに持ち込まれています。ひとつはリングに取り付けられている石そのものに特別な価値があると考えていること。もうひとつは枠のデザインが古くて使いにくいため、このままでは自分で使用することも、また譲ったり、遺したりもしたくないと考えていることです。

 一般にジュエリーの価値は使用して楽しむことにあります。しかしそれだけでなく使わなくても持っているだけで満足であるという価値もあるのです。使って楽しいジュエリーなのか、所有していて楽しいジュエリーなのかという意味から見れば、Case 2はジュエリーのユーザー(使う人)としてよりもジュエリーのオーナー(持つ人)として自分のジュエリーを持ち込んでいます。つまり所有することにジュエリーの価値をおいているのです。

・・・つづく。

 

 


 

 OWNER -所有者-

 

 婚約リングに用いられるダイヤモンドは、そのほとんどが石の品質に価値の重要性をおいてきました。そこでダイヤモンドはその輝きを最もよく引き出すために、また中央に留めている石が目立つようにするため、その石の周りのデザインを出来るだけシンプルに抑える〈立て爪〉という腰の高い6本爪に石留めされてきたのです。

 しかし宝石そのものをよく見せようとする立て爪リングは、実際に指にはめて使用するには、誠に不都合なデザインです。指から極端に突出するその腰高の作りのため、使用するときの動作に実に邪魔で、また着ている洋服やストッキングを傷つけやすいのです。使いやすさという面から見ればこれほど使いにくいものはないといえます。

 一般的に婚約のシンボルとして用いられるようになった立て爪のダイヤモンドリングは、結納で贈られてから後、どのように使用されるか推測できます。それが使用されるのは、カップルで招待されるフォーマルな席ぐらいなものでしょう。したがって立て爪のダイヤモンドリングは、どちらかというと使用することを目的につくられたジュエリーというよりも、まさに婚約の証として所有することを目的としたジュエリーといえます。

・・・つづく。

 

 


 

 USER -使用者-

 

 所有していることに価値のあるジュエリーだからといって、全く使わずにしまっておくわけでもありません。一年のうちには何度か、また数年しまいこんで使わない場合でもそれらを使用する機会に出くわすのが人生です。結納や婚礼からはじまる新婚の季節が過ぎ、育児期を迎えるころになると持っているダイヤモンドリングの尖った爪が子供を傷つけるのではないかと気にかかったりします。

 所有者の生活スタイルの変化や、時代の変化によるデザインの流れに影響されて、所有していることに意味を与えられているダイヤモンドリングでさえも、デザイン替えを余儀なくされるのです。

  普段も気軽につけて楽しみたいとなれば、使いやすくするためにその立て爪リングの石座を低くし、小さくて滑らかな爪のリング枠に作り変えるほかにありません。つけて楽しむという使用目的でジュエリーを買い求め、持ちつづけようとすればセットされているメインの宝石に価値を求めるだけでなく、デザインや加工技術が自身の好みやキャラクターに合っているかということにも価値が求められるのです。

 このようにジュエリーを選ぶにあたっては、使われている宝石の品質に価値の基準を合わせるか、自分の好みのデザインに価値の基準を合わせるかによって選ぶものが違ってくるのです。
・・・つづく。

 

 


 

ALIVE -生きている- 

 

 Case 2ではリングに留められている宝石が恒久的に価値のあるものだと前提されています。持参した女性にはこの価値を世代を超えて遺し伝えたいという意志がうかがわれます。そしてこの古い宝石を新しいデザインに作り替えることによって、新たな所有者にふさわしい、より一層価値のあるものに生まれ変えさせようというわけでしょう。

  ここではジュエリーの持つもう一つの特徴が現れています。ジュエリーにはそのオーナーの存在と威信とが刻まれて持ち続けられるということです。作り替えが完了して古い形のジュエリーの姿が消えたとしても、新しく出来上がったジュエリーには旧所有者の存在が、良くも悪くもストーリーとして生き続けるのです。

 ダイヤモンドのリングが今は亡き夫から贈られたものであれ、母親が自分のリングを新しい世代へ譲る場合であれ、またそれが先代から遺されたリングであったとしても、元の所有者の存在がこれらのジュエリーの中に生きていることになります。以上から判明するジュエリーの特徴とは・・・

1:ある特定の形を持っているジュエリーは必ずそのオーナーやユーザーの存在を表現している物であること。

2:ジュエリーはどのようなものであれ、その所有者との私的なストーリーを持っていること。

3:ジュエリーは作り替えた後でも旧オーナーの存在がストーリー化されて、新しく作られたジュエリーに刻まれること。

・・・つづく。

 

 


 

MOTIVE -動機-

 

 自分のジュエリーに飽きたり、愛着がなくなるのは自分の生活ステージや感情が、持っているジュエリーのフォルムやストーリーに違和感を持ち、すでに共鳴しなくなっているからです。作り替えの動機としては以下の要素があげられます。

1:自分の持っているジュエリーのデザインが一般的に流布されていて、自分の存在の特徴がそれによって表現されなくなってしまっている。つまりジュエリーが自分の趣味に合わなくなったから。

2:自分の持っているジュエリーのストーリーを大切に遺したいが、デザインや形が貧弱であるため、作り替えによってより恒久的な価値を持ったものにしたいから。

3:自分の持っているジュエリーのストーリーが今の自分の心的感情と一致しなくなり、時間の経過や状況の変化で今まで息づいていたストーリーが風化してしまい、それをつけても良い感性を得られなくなってしまったから。

 持ち主の存在を表現し、刻印しているのがジュエリーの本質です。それゆえにジュエリーを持続的に持ち続けることはたやすいことではありません。刻印されているストーリーがつける人に良いイメージを与える時もあれば、悪いイメージを与えてしまう時もあります。飽きて嫌になってしまったジュエリーを作り替える人もいれば、愛着がありいつまでも遺したくて作り替える人もいます。いつまでも遺したいストーリーを持ったジュエリーもあれば、消してしまいたいストーリーのジュエリーもあるのです。

・・・つづく。

 

 


 

 CASE 3 -出来事-

 

 30歳過ぎの男性、ダイヤモンドの立て爪リングを持参。注文の内容はリング内側に彫ってある年数や名前の頭文字を消し、新品に仕上げ直したいとのこと。
 続いて30歳代の女性、18金のファッションリングやプラチナのリングなど7点と、プラチナのダイヤモンドネックレス1本、片方だけのイヤリング2個。これらをすべて下取り価格に換算し直し、新しいジュエリーを購入したいとのこと。

 ・・・つづく。

 

 


 

 CASE 4 -出来事-

 

 50歳代の女性、プラチナの枠にルビーが留めてあるリング。このリングをはめていて2回もバイク事故を起こした。3度も血を見たくないので、リングのルビーを別の石にはめ替えたい。

・・・つづく。

 

 


 

 STORY -ストーリー-

 

 宝石店に日常茶飯事のごとく持ち込まれる修理品や作り替えの品の全てには、計り知れない人生のドラマが介在しています。店先で交わす会話や商談の端々に、そのお客さまの歩んできた人生の喜怒哀楽や愛のエピソード、消すに消せぬ憎しみの感情までもが見え隠れします。

  婚約リングや結婚リングに年月日やイニシャルを彫ると同時に、愛のエチュードは婚姻という社会性を持った契約としてリングの中にシンボル化されるのです。婚約リングは単におしゃれ感覚や好みで求められた一般のジュエリーと違って、契約という当事者関係、さらには両ファミリーの血縁のシンボルとして特異な存在で位置づいています。

 したがって婚約リングの刻印を消す事は、そのリングにシンボル化されていた契約とその関係がすでに崩壊してしまっているということを前提とし、なおもそのジュエリーにまとい憑いている思い出を消去しようとすることです。

・・・つづく。

 

 


 

 EXAMINATION 3 -考察-

 

 Case 3の男性は思い出の色あせた人生の一駒を、ページをめくるように過去に追いやって新しいページを歩み出したのかもしれません。恋愛期間中であれ、結婚している夫婦の間柄であれ、さめてしまったり、マンネリ化した関係に刺激を与えて、愛情の高揚を促すのにジュエリーのギフトが効果的であることは間違いがないことです。

 実際に男女間の関係回復や愛情の深化にジュエリーのなせる貢献度は多大であります。誕生日があり、ホワイトデイ、クリスマス、結婚記念日など特定された記念日のほかにも、海外旅行のおみやげ、友人や親戚のブライダルレセプション、子供の入学式や卒業式など、なにがしか理由付けすれば年間に10指にあまるほどの〈愛情効果日〉を男性たちは見つけることができます。

 そして、それらを口実にさりげなく、わざとらしい態度を見抜かれずにジュエリーを贈ることができるのです。ジュエリーがもたらすギフト効果を一度でも実行したことのある男性はその効果の絶大なこと、効力の持続性を体験として知っているはずです。
 ジュエリーを贈る行為では一般に男性がシャイで内気に振舞うのと対照的に、女性は現実的な満足度を抑えきれずに表現します。つまり大はしゃぎで喜ぶ。愛情物語はこうして贈られたジュエリーと共に展開していくのでしょう。

  ところがその次の女性は、この愛情物語の終焉を意味しています。喜怒哀楽の起伏のある男と女の絆にも修復の出来ない亀裂が生じて幕が降りるのです。やがて時が過ぎてさまざまな思い出が色あせていきます。そして人が新しい風を受けながら再び歩き出すころになると、今まで過ごしてきた二人の愛の舞台を走馬燈のように思い出させ、それをシンボライズしているジュエリーの数々は持っている意味を失い、価値は単なる地金スクラップの地底に沈むことになるのです。

・・・つづく。

 

 


 

 EXAMINATION 4 -考察-

 

 宝石が原石として採掘され、ジュエリーとして実際に使用されるまでに、さまざまな物語がそれに携わった人々の人生模様として展開します。王家や皇室のジュエリーを持ち出すまでもなく、一般に私たちの周りに見られるリングのひとつをとってみても、付いているダイヤモンドの採掘労働者、取引ブローカー、研磨職人、輸入業者、デザイナー、加工職人など数え切れない人々が関わり、さらに製品化された後も、企画メーカー、卸業者、小売業者、そしてこれを買う人、使用する人、譲られた人、やがてこれを修理する職人や作り替える職人など計り知れない人々がとどまることなく関与します。ジュエリーが消耗品でなく恒久性をもった耐久財である限り、これに関わる人生模様はいつまでも続きます。

 ユーザーがそのジュエリーとの間で織りなすストーリーは、ユーザーが実際にジュエリーを自分のものにした時から始まります。そしてそのストーリーが快感であり続けるか、不愉快なものになってしまうかは、そのジュエリーをつけている本人の個人的な生活状況と私的な出来事に依拠しているのです。

 Case 4での交通事故や日常の不愉快な出来事と、そのとき身につけていたリングとの因果関係に客観性があるはずもなく、ルビーと事故とを結び付けるのは当事者の主観的な感情であり、それによって当事者は事故の原因を心理的に解消しているのです。安全祈願のおふだを持つのと同じで、ルビーを避ける事がこの女性の安全対策になったのでしょう。
 人はわざわざ負のイメージでジュエリーを持ちません。快感や充実、幸福というプラスのイメージでジュエリーを持つのが通常です。とすれば事故の際、指から出た血とその時つけていたリングとを結び付けて、事故の因果関係を連想してしまうこの女性の主観的結論もわからないこともありません。良質の真紅のルビーはピジョンブラッドと呼ばれ、それが事故の血と結びついたのだと連想すれば、この女性にとってルビーのリングは自分に災難をもたらすものとなってしまったのでしょう。

 ジュエリーがひとたび実際のオーナーやユーザーに渡ると、どのようなジュエリーといえども、その人のそこから始まる人生のさまざまな舞台で、出会い、体験したストーリーを刻印し始めます。つまりジュエリーはそのオーナーやユーザーの人生模様をイメージさせます。Case 3.4は、このようにジュエリーに刻印されたイメージを回避したり、消去してしまいたいという心的な要求から出てきた行為なのです。

・・・つづく。

 

 


 

DISTINCTION -特徴-

 

 デザインやフォルムに飽きたり、ストーリーやイメージを消してしまいたいという衝動はジュエリーに特有なものです。そして捨ててしまうのではなく、作り替えによって満足を得るということもジュエリーに特有のものであります。それはジュエリーが宝石と貴金属という、時間を越えて存在しうる特性と、美しさを持った素材で仕立てられているためです。

 ジュエリーが恒久的な価値を持ち、修理や作り替えが可能であるからこそ、飽きたり嫌いになった物を作り直そうとするのであります。

・・・第2話へつづく。

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