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著書【宝石の裏側 vol.9】

宝石の裏側-第9話- 【文化としてのジュエリー】 

文化としてのジュエリー

 

宝石の裏側-第9話- 【文化としてのジュエリー】

 

 ジュエリーはその国の文化のバロメーターです。通常の衣食住に事足りて、金銭的な余裕と身につける機会が増えてくると人はジュエリーに関心を向けるようになります。
 東京オリンピックを契機に日本ではジュエリーの使用量が急増しました。いわゆる日本経済の高度成長期に入ると一般庶民の所得が増え、人々は自分の生活に潤いを求めるようになりました。
 バブルが崩壊して久しいですが、今でもジュエリー市場は1兆円を越える規模です。日本におけるジュエリーの消費量がいかに膨大なものであるかは金、プラチナ、そしてダイヤモンドの輸入量を見れば歴然としています。

 1986年に円高が加速すると同時にダイヤモンド輸入量は大幅に増加し、いまやダイヤモンド消費量はアメリカに次いで常に上位に位置し、世界のダイヤモンド消費を支えているといってよいでしょう。
 しかし輸入量や消費量がその国のジュエリー文化の程度を表現している訳ではありません。ジュエリーの使われ方や作られ方にその国の文化があります。作り手であるメーカー、販売する小売店、使用するユーザーという視点から日本のジュエリー文化を見てみましょう。

・・・つづく。

宝石の裏側 -Vol.9-
ジュエリーリフォームデザインスタジオ やまやくらぶ

 

 

 


 

CREATE -物造り-

 

 わが国ではこの30年の間に急激なジュエリーの普及が行われましたが、このあまりに急激な普及に乗じてジュエリーの大量生産が行われています。メーカーは良いものを作り出して消費者に提供しようというのではなく、売れ筋のものをいかに素早く作れるか、ということを競い所にしてきました。
 また、消費者である使い手も『他人と同じが良い』という日本人独特の感覚が働き、結果どの店に行っても同じジュエリーが並んでしまうという現象に至りました。
 ジュエリーのジュエリーたる存在理由はそれが独創性を持っているということです。ジュエリーの独創性とはすでに述べたように、素材の品質がそのジュエリーにふさわしい質であること、デザインに共感性をもてること、職人の技が優れていることです。

  ジュエリーが高品位に仕上がり、それ自体がその時代の文化の象徴であるためには、造る人とつける人が一体となってその時代の文化をジュエリーに形態化しなければなりません。つまり、そのようなジュエリーは両者の創造的なコミュニケーションによって誕生します。いつになっても輸入ジュエリーに依存しているようでは日本の宝飾文化はその貧しさから脱出できません。

 造り手が使い手の要望をいかに掌握して作品造りに努めるか、このことがデザイナーやメーカーに求められます。また、使い手も自分の嗜好を制作者に十分に伝えることが必要となります。
 『思ったより良く出来た』というのがリフォームやオーダージュエリーの鉄則です。『使えば使うほど好きになる』と言わしめるジュエリーだけがその成熟さを物語っています。ジュエリーついてこのような言葉が聞こえてくれば、宝飾業に携わるものにとってこれ以上の仕事冥利はありません。

・・・つづく。

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RETAIL -小売業-

 

 実際にジュエリーを使用するエンドユーザーにとって、満足のいく物を手にする場所は小売店からであり、小売業者を介してです。つまり小売業こそが宝飾業の最前線であるといえます。ここだけがユーザーとメーカーの接点であり、具体的なユーザーの感性、生活スタイル、ライフポリシーなどを、制作されるジュエリーに還元させることが小売業務です。
 そして、当面する時代のジュエリーがどう求められているかを最も良く捉えることが出来るのも小売業です。小売業を発展させること、つまり小売業からの情報が質の高いものになればなるほど、メーカーで質の良いジュエリーが出来上がります。したがって宝飾業の指標は小売業が掲げるものです。メーカーや卸問屋やデザイナーは小売業の方向を向いていなければなりません。小売業の情報から商品の企画や制作にはいっていくのが、ユーザーにとって満足のいく製品を作ることになるのです。

  ところが日本の現状は小売店に商品開発の自立性が無く、ユーザーの感性を製品化する能力の点で実にひ弱です。その為、メーカーやデザイナーが一人歩きしてしまっているのが現状であります。現実に小売店に並んでいるジュエリーはほとんどメーカーやデザイナーが一方的に制作した物であり、小売店の情報が多少なりとも盛り込まれているものを見つけるのは大変難しい。
 繰り返しになるが、実際にジュエリーをつけるのは小売店での買い物客であり、この買い物客のニーズがジュエリーに取り込まれなければ、満足度の高い製品は出来上がりません。小売業務を豊かに育てあげることがメーカーやデザイナーの使命でなければなりません。

・・・つづく。

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CULTIVATE -文化-

 

 日本の宝飾メーカーはこの使命を肝に銘じて、その事業を遂行すべきです。筆者はニューヨークのジュエリーショウにたびたび買い付けに行った経験があります。最初は真珠の輸出をしていた頃でした。会場に入る際、身分証明になる物として名刺の提示を求められました。出した名刺に輸入業者の肩書きの入っているものを出したところ、なんと入場を拒否されました。
 その展示会は小売業者用に設定された会場であって、入場できるのは登録会員である小売業者のみということでした。当時ニューヨークのこの会場は小売業者と出展メーカーやそのデザイナーとのしのぎを削る激しい情報交換の場所であったのです。その会場には入場許可を受けていないメーカーやブローカー、デザイナー、貿易業者などは入ることはできないのでした。

  当然のことエンドユーザーも、顧客を連れだっての小売業者も近づくことさえ出来ません。これが小売業を育て、自らも伸びていく宝飾メーカーのありかたです。バイヤーなら誰でも良く、小売も卸も混在させた日本の国際宝飾展などは宝飾文化の発展のために全く無意味であるばかりか、むしろ豊かな小売業務が進展する為には有害であるといえます。
 文化が育つ為にはそれだけの土壌が必要です。宝飾文化を育てる為には宝飾業界が小売業務という土壌を育てなければなりません。小売業という土壌でジュエリーは育まれるからです。

・・・つづく。

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DEVELOPMENT -発展-

 

 最近の価格破壊という市場傾向に乗じて、メーカー直営工場とうたったチェーン店が宝飾市場を席卷しています。ジュエリーが安い価格で手に入るのは消費者にとって歓迎されることですが、この販売形態が宝飾文化を育てるかという点からみると、むしろ限りなく文化破壊に向かってしまう商法です。価格競争が商品の品質競争と逆行するからです。
 日本の服飾文化が和服を主流としていた時代には、それに応じた宝飾文化が存在しました。和風小物や愛煙用具、家具や茶道具などに飾り職人は独自の領域を開いたといえます。

  やがて欧米の服飾文化の急激な浸透がはじまるのですが、宝飾文化の大衆への浸透は、特に市民生活の金銭的余裕と比例せざるを得なかったため、ここ50年ほどの間に行われたにすぎません。この間に確かに日本の宝飾技術は大きく発展しましたが、その発展の仕方は、いかに早く簡単に売れ筋の商品を作るかというビジネス上の効率を優先させたのが実情です。
 したがって一部の作家物を除いて、街の小売店に並んでいるジュエリーに、積み重ねられた日本の伝統を反映しているものはほとんど見当たりません。機械作りで工賃を抑えて出来上がったジュエリーに施されている技術やデザインが、文化的に高度の成熟性を持った物だとは決して言えるものではないのです。いま、日本の宝飾はこうした貧しい土壌で作り出されています。

・・・つづく。

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CASE A -出来事-

 

 40歳代の専業主婦。今までは事業家の夫に内緒にしてジュエリーを買っていましたが、今回気に入っているダイヤのリングは夫に買ってもらいたいと思っています。そこで、公園に梅を見に行くという口実で夫を宝石店に誘いました。

  欲しいと思っている指輪を見せたところ、『いいんじゃないの』とそっけなく言われました。その日は梅園からの帰りだったので、後日夫が支払いを済ませ自分に渡してくるのを心待ちにしていました。しかし一向に事が進まないので、結局夫の在宅の時を狙って品物を自宅に届けてもらいました。

・・・つづく。

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 CASE B -出来事-

 

 40歳くらいのOL。結婚20周年ということでダイヤのリングを買いたい。自分のお金でも買えるが、今回は記念日ということだから、主人に買って欲しいと思っている。

  家計は自分がやりくりしているし、主人の懐具合もわかっている。結局、家計の蓄えから調達するので自分の采配でお金を出すことになるのだけれど、この場合は主人を立てなければと思っている。

・・・つづく。

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MEN -男性

 

 日本の宝飾文化の貧困さは、日本の男性のジュエリーに関する貧困性に起因しています。無知、無関心、無頓着という貧しさが日本の男性に蔓延していて、まるでそれが当然の美徳かのように彼らは思っています。
 カップルで宝石店に来ても女性のジュエリー選びに積極的に参加する男性はわずかです。黙って見ているか、好きなようにしたら、という態度です。宝石店に入る男性はまだ良いほうで、決して入らず外の車で待つか、自分の用事を作ってわざわざ別行動をとる殿方も多くいます。

 美しく魅力のある女性に惹かれるのは、世界中の男性の全てに共通するところだが、一旦落城させた伴侶をより美しくしようと努力しないのが、日本の男性の特徴です。男性の努力しだいで女性が美しくもなれば、老け込んでもしまうのだということを日本の男性はもっと知るべきです。

  女性が着る洋服やジュエリーのセンスは何はともあれその女性の殿方や伴侶のプレステージとセンスを象徴しているのです。自分の『おんな』がきれいになることに対して、実にシャイなのが日本の男性のようです。そしてこのシャイはそのまま日本の宝飾文化の貧困さを培っているのです。
 すでにジュエリーを選ぶ際に重要な三つのポイントについて述べました。繰り返しになりますがそれは品質、デザイン、工芸力がジュエリーとして適しているかです。そしてこの検証は実際には女性よりも男性のほうが優れているのです。特に制作技術の良し悪しについては男性の判断に委ねたほうが的確です。また、殿方のお墨付きがあれば買い求めたジュエリーに快いストーリーも出来上がって付加価値がつくというものです。

・・・つづく。

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WHY -なぜ-

 

 女性がなぜジュエリーを身につけるか、ということについても日本の男性は無知であります。女性は外見を飾りたて、他人に対する見栄だけでジュエリーをつけているのではありません。人がジュエリーをつけるのは自分の生き方を素直に表現する為です。自分の生き方に自信ができれば、その自信をジュエリーに表現し、記念や思い出を刻みたければジュエリーにストーリー化したイメージを付着させれば良い。
 ジュエリーというものはストーリーを持ち続け、そのストーリーが持ち主に希望や勇気を与えるのです。これがジュエリー特有の存在意味であり価値なのです。

 女性も男性からジュエリーを買ってもらうとき、ただ単にお金を出していただくだけでなく、選んでいただくべきでしょう。選んでもらってはじめて男性から譲られたジュエリーの価値とパワーが生じるのです。
 ジュエリー選びに参加しない男性は、いつまで経っても女性の心がつかめません。ジュエリーの最も良い持ち方は、尊敬する方や、好きな相手から譲られることだということを日本の男性諸氏はもっと知るべきです。このときこそ最も良いストーリーが誕生するからです。

  日本の男性の無頓着さは自分の奥方が使用したり、所有したりしているジュエリーについてもあらわれます。奥方の持ち物について、いつどこでどのようにして買い求めたかを知るどころか、どんなジュエリーがあるかさえも知ろうとしません。女性たちもそれを良いことかのように亭主に黙って買いあさります。
 しかし、こそこそと秘かに、しかもへそくり程度の金額で買うので、いい買い物ができません。これでは良いストーリーが生まれないので、付加価値もつきません。このような買い方では、堂々とオープンにジュエリーその物を露見させられないので、強いジュエリーパワーがでないのです。貧しい買い求め方をすると、たとえ高価な宝石であっても貧しい価値しか発揮し得ないのです。

 日本の夫たちは自分の妻の買い求めるジュエリーにもっと気を使うべきです。同様に日本の妻たちは自分のジュエリーを手に入れるとき、もっと自分の夫を立たせるべきです。無関心を装っている男を引き出して、買い求めようとするジュエリー選びに参加させようと努める事が宝飾文化の貧困さを救う第一歩です。

・・・つづく。

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POVERTY -貧困-

 

 婦人のジュエリー選びに男性が積極的に参加すれば日本の宝飾文化は二つの面で進展していきます。まずユーザーがジュエリーを使用して楽しむ場所、つまり生活の中のジュエリーステージが活性化します。ジュエリーステージは男女がカップル参加している場合に真に盛り上がるものです。次に男性のジュエリーへの関心度が高まれば、ジュエリーの制作技術に格段の進展が起こるでしょう。それは技術を見抜くのは男性のほうが女性よりも優れていて、メーカー側にとって男性の評価に堪えるようなものを造る事が制作上の目標となるからです。ユーザーの側に進化があれば制作する側にも高度な技術が生まれてくるでしょう。

  日本の男性の豊かな美的感性と優れた技術力がジュエリーの中に生かされたときには、必ず日本のジュエリー市場も新たなジュエリーステージを迎えるに違いありません。そしてこれらのニーズは実際につけて楽しんでいるユーザーから生じてこなくては意味が無いのです。
 ビジネスに先行されたメーカー側や、デスクデザイン、コンテストデザインの場からは地に根付いた宝飾文化は生まれてきません。日本の男性が宝石店に並んでいるジュエリーや奥方のジュエリーについてもっと関心をもち、その出来具合やテイスト、使い勝手について意見を寄せるようになることが、日本の宝飾文化を豊かにするただ一つの方法です。

・・・つづく。

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EXAMINATION A B -考察-

 

 Case A Bのご婦人方は、ジュエリーにはストーリーが必要で、それが付加価値をもたらすのを知っています。宝飾文化は男と女の合意の文化でもあります。女性の持つジュエリーのおしゃれは同時にその男性のプレステージを表現しているのです。
 パーティー会場でつけている女性のジュエリーはその女性の殿方の存在を象徴しています。婚礼の式場で互いに指輪の交換をした時からジュエリーは互いの存在を意味しあうのです。
 ジュエリーは自分で買い求めるよりも贈られたほうがずっと大きな存在意義を持つ物となります。送り主とのストーリーが息吹くときに勇気と力が与えられるからです。これが宝飾パワーというものです。

  真のパワーというものは物にはじめからあるのではなく、その物が関係した人間との間に生じてくるものです。物品であるジュエリーに人間のこだわりや意味づけがストーリーとなって埋め込まれると、そのジュエリーは独立した生きた物体となって、自分の持ち主にパワーを与え続ける事になります。
 日本の殿方は女房のつけているジュエリーがどのようなストーリーを持っているかを知るだけでなく、それが殿方自身をも象徴しているのだということを知るべきです。

 欧米のネックレスの留め金具がどうしてあのように小さくてやりにくいのかを推測したところ、女房の外出時にネックレスを留めてあげるのは亭主の役目らしいと分かりました。女性のうなじに手をやるなどということは日常的には有り得ないことでしょうが、留め金具を留めてやる気づかいで、昨夜の気まずさも仲直りできるというものです。
 かくして留め金具の小ささは夫婦の仲直りに貢献しているというわけであります。『ねぇ貴方、ちょっと後ろをとめてくださらない』という一言がなんとも夫婦のぎこちなさを和ませるのです。奥方がネックレスをつけるとき、日本の殿方がもう少し手助けするようになれば日本の宝飾文化はもっと活気が出る事間違いなしであります。

・・・つづく。

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CLASP -クラスプ-

 

 ネックレスの留め金具がジュエリーの一部であることは当然の事ですが、日本ではこれがなかなか発達しません。ユニークで特徴ある留め金具はほとんど外国製です。チェーンには引き輪とプレート、パールのチョーカーには銀製の花柄クラスップ(留め具)というのが通常のあり方となってしまっています。
 外国製の特徴あるものを勧めても、ほとんどの人が安いクラスップで済ませてしまうのです。みんなと同じが良いという社会通念と、目立ちすぎは避けるという日本人特有の礼節感がはたらいて、日本の女性のうなじには皆同じクラスップがついてしまいました。
 ですが、みんなと同じが良いというのは、他人の為におしゃれをしているような物です。それでは自分の主張や個性が表現されないので、つけているジュエリーは借りてきた猫のようです。

  クラスップには裏と表があるものと、表裏なく全面のものがあります。前者は日本製に多く見られ、欧米には後者のものが多い。立食パーティーや動きの激しいダンスパーティーなどではクラスップはすぐにひっくり返るので、表裏あるものは不都合となります。和洋の文化の違いがクラスップにもあらわれているのでしょうか。

 今日ではさほどではないが、これまで日本の婦人は披露宴でもディナーパーティーでも座ったままでほとんど動かないことが多かったのです。隣や前の婦人がつけているネックレスに一瞥はしても留め具まで見るチャンスは少なかったのです。日本の婦人は留め金具は見えないものだし、見えないものにはお金をかける必要がないと思っていました。
 ところが欧米のパーティーでは少し事情が違います。こちらでは背後の留め具は恰好のチャームポイントなのです。パーティー会場で女性たちは正面から互いのジュエリーを正視することはないが、後からはかなり注意深く見る事ができます。欧米で留め金具が多種多様に発達するのはこのような事情に影響されているからです。そして、日本で留め金具が発展しないのは日本の宴会事情のためだと推測してもよいのではないでしょうか。

・・・つづく。

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SERVICE -接客-

 

 文化はそれを生み出す土壌が育たなければ進展しないこと、メーカーやデザイナーが文化を引き出すわけではないことは既に述べました。ジュエリーは絵画や彫刻とは違います。絵画や彫刻は見る側がある程度の距離間隔をもって鑑賞するものであるが、ジュエリーはユーザーの身体につけるものです。したがって当然つけて使用しているユーザーのニーズからのみ宝飾文化は発祥してきます。

 宝飾文化を舞台演劇に例えれば、宝飾デザイナーや制作者は舞台裏のスタッフです。そして実際にジュエリーをつける人が舞台の主役です。主役の演技者たちが着こなし、つけ馴染んではじめてジュエリーは生きてくるのです。コンテスト会場やショウケースに並んでいるうちはいまだジュエリーは完成品ではありません。持ち主や使用主を得てはじめて生きた完成品とよべます。
 また、デザイナーや制作者はユーザーの実生活の舞台ニーズをダイレクトに捉えなくてはなりません。欧米の輸入品やそのコピーはそのまままで日本の宝飾文化とは言えません。

  宝飾文化を根底から支え発展させるのはユーザーのニーズそのものです。ユーザーとの情報交換から制作スタッフは本当のジュエリーを作り出すことができます。そしてユーザーと最も豊富にコミュニケーションできるのは小売店の店頭です。したがって小売店がお客のニーズを引き出し、捉える事が重要となってきます。このことからも宝飾文化というものは大きな宝飾メーカーや輸入会社が作り出しているのではなく、ユーザーと直接対応する小売商たちが作り出すものと言えます。

 小売店のジュエラー達の質で宝飾文化の優劣が左右されます。特に小売店の店頭におけるユーザーとの対話の質が高ければ、それだけ質の高いジュエリーが誕生するのです。日本の宝飾文化が未だ貧しいというのならば、それは小売店の店主や店員のポリシーの貧しさのためです。
 メーカーから仕入れた物や既にショウケースに並んでいる商品にお客様のニーズを合わせようと努めるのは真の接客とはいえません。品物の方をお客様のニーズにあわせてアレンジし、調達するのが望ましい接客でしょう。お客様の生活スタイル、予算、購入目的、使う人の趣向、キャラクターやポリシーなどを捉えてお客様の満足度にどれだけ近づけるかが接客の基本であります。つまりお客様に似合うジュエリーをつくり上げること、見つけ出すこと、既に出来ているものを調整したりアレンジしたりすることが重要です。店員は商品知識に富まなくてはならないが、それ以上にお客様のニーズを的確に聞き出す訓練を必要とします。

・・・第10話につづく。

宝石の裏側 -Vol.9-
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