ここは『やまやくらぶ』秘密の部屋。
更新しても気づかれないので、誰にも知られるはずのないコーナー。
迷い込んだ方も、ココをクリックすればすぐに出ることができます。

 

そして、くれぐれもこのコーナーのことは内密に・・・。

 

このまま読み進める方は、覚悟してください。
このコーナーでは、みなさんに楽しんでいただける自信がございません。
それでは第15回、はじまりはじまり。

 

【これまでの、あらすじ】
村社会でヌクヌクと過ごし、あたかも主かのように振舞っていた男が、
渡米を機に、原寸大の小さなちいさな自分と格闘するノンフィクション。

 

出かければ迷子になり、食事もままならないその姿は、まるで赤子の如く。
そしてそれから1カ月が過ぎた・・・
男はコーヒーを片手に、マンハッタンを闊歩し、ニューヨークライフを満喫していた。

 

いったい男は、どうやってこの巨大な街で生きてきたのか。
小さな自分と、どう向き合ったのか。
このあと、第3話。

 

 

本日のお題はこちら。

摩天楼…眩しくて涙がとまらない(あれから・・・)】 

 

まだ6月というのに連日35℃を記録し、歩いているだけなのに気が遠くなった。
通りの向こうに見つけた、『ファーマシー』とは、
日本でいうところのドラッグストアのことだった。
そこでは、医薬品はもちろん日用雑貨、文具に至るまで全て事足りる。

 

毎日、最寄り駅までのルートを微妙に違えて通っていると、
だんだんと土地勘が養われてくる。

 

バス停、スーパー、パン屋、カフェ、バーなど、
生きるか死ぬかのライフラインはなんとか確保できたが、
信号の押しボタンの場所が判明するまでは、いつも信号無視だったため、
4車線の大通りで、ある意味では命懸けだったといえる。
(ボタンが非常に分かりにくい所にある!)

 

憧れのマンハッタンを往来するには、
Long-Island-Rail-Road(通称:LIRR)という
路面電車を利用しなければならないのだが、これも一筋縄ではいかない。
途中、乗り換えがあるのだ。

 

当時の私が理解した、車内アナウンスは次の通り・・・
『*****駅でこの電車は******です。*****番ホームで後から*****の、*****時発の電車にどうのこうの・・・』

路線図を観ると、いくつか枝分かれしており、
『そのまま乗っていると電車は、この路線に入りますよぉ』
・・・的な事を言っているのだと思う。たぶん。

 

路線図にはきちんと駅名が記載されているのだが、
車内アナウンスでは全く聞き取れない!!
きっと一昔前の、山手線の車内アナウンスみたいに、
独自の口調でしゃべっているに違いない!たぶん。

 

結果、幾度も路線を間違えた。そのたびに、元の駅に折り返して乗り直す。
少し進むと、次の分岐点でまた違う方向へ・・・あぁ・・・。

 

郊外の小さな駅で、夜の8時にポツンと一人、ホームにわたし。
30分待っても電車が来ない・・・
寂しいというより、とても怖かったのを憶えている。

 

外灯から程良く離れた、暗くもなく明るくもない場所で、目立ぬよう風景と一体化していた。
後になって、その場所が危険なエリアだと知り、背筋が凍ったものだ。

 

ようやく帰宅・・・電車の乗り換えごときで、連日ぐったりと疲れる。
それでも私は、何かにとりつかれたかのように毎日マンハッタンに向かったのだ。

 

終着駅のペンシルバニア・ステーション(Penn.Station)は、
マンハッタン島の中央部33rdストリートにあり、
そこからマンハッタン中の観光スポットに、地下鉄でアクセスできる、とても便利な駅。

 

ブロードウェイ、5番街、マディソンアベニュー、セントラルパーク・・・
行きたいところは山ほどあった。
だがそれよりも、今はあの車内アナウンスを攻略しなければ・・・
と、思いつつその日も早めに帰路につく。

 

当時の日記をふりかえると、乗り換えの車内アナウンスを聞き取れるようになるのに、
13日間かかった。
そして17日目には、車掌の雑談まで聞き取っていた。
出会える頻度は少ないのだが、雑談が多い車掌がいて、車内スピーカーを通してよく学んだ。
慣れてしまえば、車内アナウンスは早口でもないし、おかしな口調でもない。自分が至らないだけだと解った。

 

そしてある日、ついにツアーを申し込むことになる。
エンパイア・ステートビルからマンハッタンの夜景を観た後に、
ブルースを聴かせるクラブでディナー、という魅惑的なツアー広告が切っ掛けで。

 

300m上空からの夜景は、ただただ美しく、心に焼きついた。
色とりどりのライティングが、この島全体をあまりにも明るく照らしている。
・・・ふと、寂しさがこみあげ、摩天楼の夜景がぼやけた。
『ニューヨークへ来てよかった・・・』

 

さて、来たからにはタダでは帰れません。
翌日からは、伸びきった髭をそり、スーツに袖を通す。
マンハッタン47thストリートの、高層ビル上階にオフィスをかまえる、
あるジュエラーに会うべく、段取りした。

 

彼とは、その後とても長い付き合いをすることになるとは、その時はまだ...
摩天楼…眩しくて涙がとまらない(完)

 

つづく。
何かが見えるまで。内藤。

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【ほぼ内藤わたり】-第15球目-